水産試験場
本年度発生した赤潮について

(図1)宮崎県全域における有害赤潮
の発生状況(H24は9月末現在)
年6月下旬から7月にかけ豊後水道周辺海域において、カレニア・ミキモトイという有害プランクトンによる赤潮が広範囲で発生し、本県を始め愛媛県と大分県において多大な漁業被害が発生しました。本県では、平成に入って有害種による赤潮は年に0〜2件程度で推移しておりましたが、本年度は9月末時点で4件発生しております(図1)。特に有害種の代表格であるヘテロシグマ・アカシオとカレニア・ミキモトイの両方が赤潮を形成したのは平成元年以来のことです。 今回は、この2種類の赤潮について、発生状況や気象条件等から今後の傾向と対策を考察したいと思います。

(図2)ヘテロシグマ・アカシオの
赤潮発生期間(H24)
●ヘテロシグマ・アカシオについて
ヘテロシグマは、魚類のへい死を引き起こす有害種であり、海水1ml当たり10,000細胞以上の密度に達すると養魚がへい死する危険性が高くなり警戒する必要があります。また、本種は分裂を繰り返して増殖しますが、環境条件が整わなくなるとシスト(休眠期細胞)となって海底の泥に付着して越冬し、翌年の発芽を待ちます。つまり、一度赤潮が発生すると大量のシストが海底に堆積し、翌年に大量の栄養細胞が発芽するという可能性があります。北浦湾海域では、過去に発生した赤潮のうち本種によるものが一番多く、平成5年まではほぼ毎年発生していました。平成6年以降は毎年出現するものの赤潮を形成しなくなり、その要因は漁場環境が改善され栄養塩濃度が低下したことが大きいと考えていましたが、平成22年6月下旬から7月上旬にかけて北浦湾周辺海域において大規模発生し、過去最大の漁業被害が出てしまいました。漁場環境が改善されても気象等の条件しだいで大増殖を引き起こすことが確認され、警戒レベルを上げたものの平成23年度は数百細胞の出現にとどまりました。
そして本年度、本種による赤潮は4月末から立て続けに3海域でほぼ同時期に発生しました(図2)。いずれの海域も発生源は、閉鎖性の高い湾や漁港内です。北浦湾と尾末湾ではかなり高濃度に増殖し漁港内から養殖漁場へと広がりましたが、関係漁業者による一斉餌止めと短期間(2〜3日)で終息したことにより漁業被害は生じませんでした。なお、地理的に隔てた3海域で同時期に赤潮を形成したことから、この種の増殖要因はやはり気象や海象の自然現象に起因するウエイトが大きいと言えそうです。

(図3)ヘテロシグマ・アカシオの
赤潮発生期間の気象条件
(宮崎県地方気象台)
また、過去の赤潮事例より5月から7月の大雨の後に赤潮を形成することから、底層水温20℃で発芽し、低塩分(33%未満)を好み、弱い光でも増殖し、増殖スピードが速いという特徴が挙げられます。赤潮発生時の気象条件を見ると、4月の中旬から断続的な雨が続き4月22日に80mmを超すまとまった降雨があり海水の塩分濃度の低下が示唆されます(図3)。水産試験場では、北浦湾において定期調査を行っていますが、4月23日の大雨直後の調査時においては、表層塩分は低下していたものの底層水温は18℃台でヘテロシグマの栄養細胞は確認されませんでした。赤潮発生期間においては、3海域ともに底層水温が20℃前後で表層塩分が33‰を下回っており過去の事例と同じ特徴を示していました。特に、北浦湾では発生期間の3日間全て雨で日照時間は少なく赤潮の長期化が懸念されましたが、快晴となった5月3日より他の珪藻類が増殖しヘテロシグマは激減しました。なお、3海域の発生日の多少のずれは、おそらくシストが発芽する発生源海域の水深の差であり、外気温の上昇に伴い浅い方から底層水温が20℃に達したと考えられます。
ところで、北浦湾と浦城湾は過去にも本種による赤潮が発生しておりますが、尾末湾では発生記録がありません。2年前の大規模赤潮で流入したのか、あるいは延岡湾の南部や細島港内での発生事例があることからそもそも港内にシストが存在していたのかもしれません。いずれにしても、3海域とも確実に湾奥部や漁港内に本種のシストが堆積しているはずです。来年の、底層水温が20℃に達する頃(例年では5月中旬)から潮色の変化に細心の注意を払ってください。
FISHERIES EXPERIMENT