水産試験場

(表1)カレニア・ミキモトイの
年度別最大細胞数

(図4)定期モニタリング調査結果
(7月9日)

(図5)県境から北浦湾の調査結果
(7月12日)
●カレニア・ミキモトイについて
カレニアは、海水1ml当たり1,000細胞以上の密度に達すると養魚がへい死する危険性が高くなり、また、アワビは海水が着色しない100細胞程度の濃度でへい死することがあるためヘテロシグマより低濃度での警戒が必要となります。また本種は、シストを形成せず、周年栄養細胞の形態で越冬しています。北浦湾海域においても、平成22年度の冬季濃縮調査で栄養細胞が確認されています(0.0007〜0.0047細胞/ml)。しかながら、本種が赤潮を形成した過去8ヵ年(S61、62、63、H元、H15、H16、H18、H19)は、北浦湾での発生以前に全て大分県海域で赤潮を形成しており、豊後水道を南下して北浦湾に流入していると考えられてきました。それを確認すべく、平成20年度から大分県との県境付近の調査を開始しましたが、その最大細胞数と北浦湾内の最大細胞数は表1のとおりです。北浦湾と県境付近の最大細胞数の時期はほぼ一致が見られ、概ね両者は相関しています。県境付近の定点は水深40m程の沖合であり、潮流や栄養塩の関係で本種が増殖する環境にないと考えられます。赤潮の形成は、決まって閉鎖性が高く潮流の弱い湾奥部や陸水の影響を受ける沿岸域です。
本年度は、7月上旬に大分県において本種の赤潮発生海域が南下傾向にあったことから7月9日に定期調査を行ったところ、本年度初めてカレニアの細胞が確認され最大214細胞/mlが沖側の湾口部で確認されました(図4)。このとき、潮色は良く透明度も平均9.7m(平年値5.1m)とかなり高い値を示し、珪藻類の激減と水温の急上昇、本種の細胞数が湾奥になる程少ない点を踏まえると、まさに沖からの潮に乗って本種が流入した直後の様子を捉えることができたのかもしれません。透明度は高いものの、カレニアが完全な優占種であったことから直ちに一斉餌止めを周知しました。翌日には、湾奥でも140細胞mlと増加しておりました。
また、10日には北浦湾から浦城海域を越え安井港でアワビのへい死が確認されたことから、100細胞/ml以上のカレニアの流入があった可能性があります(翌日調査では70細胞/ml)。
12日の県境付近の調査で、740細胞/mlのカレニアが確認され、北浦湾に近づくほど濃度が薄くなり拡散している様子を捉えることができました(図5)。それと同時に9日に流入した本種が湾奥部で増殖しており、最大1,532細胞/mlの赤潮形成が確認されました。同日、延岡湾を越えた尾末湾でも最大60細胞/mlが確認されました。おそらく、9日にはもっと高濃度なカレニアが沖合で南下・拡散していたことが想像されました。

(図6)カレニア・ミキモトイの
赤潮発生期間の気象状況
宮崎地方気象台
ところで、本種についての特徴は、ヘテロシグマほど増殖スピードは早くないものの、低塩分を好む点と弱い光でも増殖する点は似ています。赤潮発生時の気象条件を見ると、本種が流入したと思われる9日以降、11日と12日に2日で約80mmのまとまった降雨があり表層の塩分濃度が32%台に低下しており、それに伴い赤潮の形成が確認されました(図6)。13日と14日も曇りがちの天気で3日間継続した後15日には最大75細胞/mlと減少し、塩分濃度の回復と他の珪藻類の増加に伴い終息しました。
今回の赤潮は、養魚がへい死すると考えられる濃度まで増殖しましたが、一斉に餌止めが行われたため、大きな被害はありませんでした。カンパチ稚魚1300尾(70万円)がへい死したという報告がありますが、避難のための筏の移動によるもので全滅ではなく一部ということです。一方、アワビは本種に弱く、安井地区と浦城地区でほぼ全滅し約365万円の被害が出ました。一方で、須美江地区のアワビは餌止めを行ったことで200細胞/mlを超える濃度に対しへい死個体はほんの一部でした。
本年度は、大分県海域の赤潮が南下し本県海域に流入後赤潮を形成をするということが再確認されるとともに、県境付近からの移流・拡散の状況を初めて捉えることができました。これらのことから、カレニアが湾内に高濃度で流入し、他の競合種、塩分濃度、日射量、栄養塩等の条件が整えば、赤潮形成に至るものと考えられます。
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