水産試験場
アカアマダイの放流技術開発について−水産試験場 増殖部−
産試験場では養殖漁場が適正に利用されているかを把握するため、定期的な漁場環境調査を実施しています。養殖漁場の適正な利用は、赤潮による養殖魚の大量へい死や魚病の発生を未然に防ぐだけではなく、近年、とりわけ消費者の関心が高い“安全で安心な”水産物を安定的に生産し供給する基礎となります。今回は水産試験場が実施しております調査結果をもとに県内の養殖漁場環境の現状について報告します。

北浦湾養殖漁場環境について

図1は、北浦湾における養殖生産量と海底に含まれる硫化物量(AVS-S)の経年変化を表しています。硫化物は生物にとって有害であり、底泥に含まれる硫化物量がある一定量を超えると有機物を分解する底生生物に悪影響を及ぼします。健全な漁場を維持するため、本県の関係漁協では底泥に含まれる硫化物量を0.17mg/g・dry以下とする漁場改善目標基準を定めています。
北浦湾における硫化物量(AVS-S)の推移をみますと、昭和60年前後が最も高く、その後低下傾向に転じています。平成10年頃から養殖生産量が再び増加したことにより、一時、硫化物量(AVS-S)も上昇しましたが、近年では目標基準である0.17mg/g・dryを大きく下回る値で推移しています。
図1.北浦湾における養殖生産量と硫化物量の推移
漁場環境が改善した要因の一つとして、給餌餌料が生餌からモイストペレット(MP)若しくはエクストルダーペレット(EP)に変わったことが挙げられます。北浦湾ではブリ類養殖における配合飼料の導入は平成 4年から開始され、現在ではほとんどのブリ類養殖業者がMPもしくはEPを給餌しています。今後も適切な飼育環境レベルが維持されることを期待します。

浦城湾養殖漁場環境について

図2.浦城湾における硫化物量の推移
図2は浦城湾における養殖生産量と海底に含まれる硫化物量(AVS-S)の経年変化を表しています。浦城湾内における魚類養殖の歴史は本県では最も古く、本格的な養殖生産は昭和36年から始まり、昭和40年には養殖生産量はハマチ116,300尾、シマアジ13,400尾まで増加しましたが、漁場環境の悪化、餌の高騰等の理由から徐々に衰退し、湾内での魚類養殖は平成12年以降行われていません。近年は漁場改善目標基準0.17mg/g・dryを下回る値が観測され、改善の兆しが見え始めています。浦城湾のように閉鎖性が強い海域は一度漁場が悪化すると回復までに時間がかかることが予想されますが、浦城湾は改善の兆しが表れるまでに約10年の歳月を要したことになります。

尾末湾養殖漁場環境について

図3は尾末湾における養殖生産量と海底に含まれる硫化物量(AVS-S)の経年変化を表しています。尾末湾は昭和60年代と比較すると著しい改善傾向にあり、平成21年は漁場改善目標基準0.17mg/g・dryを下回る値が観測されました。
しかし、北浦湾と比較すると年による変動が大きく、安定性にやや欠ける面があるため今後も注視していく必要があります。
図3.尾末湾における硫化物量の推移
FISHERIES EXPERIMENT