水産試験場
イワガキの人工種苗生産方法の改良試験について 〜増殖部〜

はじめに

イワガキなど海水中のプランクトンや懸濁物を餌として利用し成長する「ろ過食性生物」や海水中の栄養塩を吸収する「海藻類」などの人為的な増養殖により周辺の富栄養化を抑え、漁場環境の浄化・保全が期待できます。また、餌を与える必要がないなど魚類養殖と比べ労力やコストが少なくてすみ、これらを複合的に組み合わせることで環境を保全しながら沿岸海域の持続的な利用とともに副業的な収入源にすることができるのではないかと考えられます。
県内では昨年くらいから県北、県南を中心に、水試人工種苗の他、天然採苗した種苗を用いて試験養殖が行われ、さらに今年からは本格的な生産もスタートしています。
水産試験場では、これに先立ち、天然採苗の不安定さを補完し、種苗確保の一手段とする目的でイワガキ人工種苗生産試験を行なっています。
今回は、以前本コーナーにてご紹介した平成23年度人工種苗生産試験概要の続編として、人工種苗生産方法の一部改良による種苗生産試験についてご紹介します。

イワガキの人工採苗(人工種苗生産)方法の概要

まず、今回ご紹介する内容に進む前に、復習を兼ねて大まかな人工種苗生産方法について述べますと、まず成熟母貝を用意し、生殖腺に切れ込みを入れ、そこから卵や精子を染み出させて集めます。次に、集めた卵と精子を混ぜて一定時間受精を行い、その後、洗卵、さらに12〜14時間ほど初期培養を行い、浮上してきた浮遊幼生(D型幼生:アルファベットのDの形をしているのでこう言う)を集め、500L水槽1槽に1個/mlの密度で50万個を収容します。その後、浮遊幼生期間の約25日間と、更に水槽内に付着基盤としてホタテ貝殻を吊した付着幼生・付着稚貝期間の約10日間、毎日、水温・水質測定と給餌量調整を行ないつつ、2、3日おきに、あるいは毎日飼育水の交換を行いながら沖だしまで飼育します。

安定的かつ効率的生産のための種苗生産方法の改良

平成24年度は、さらなる生産個数の増加を目指して、いくつか生産方法の改良を行いました。

○成熟母貝確保の時期はいつ頃が良いのか?
〜良質卵を得るための指標の検討〜


図1北浦町市振試験区成貝の生殖腺指数の推移
(H24.1〜25.3月)
イワガキ成貝は春から夏にかけて生殖腺を発達させ、天然海域ではおおむね8月下旬から9月にかけて産卵するものと考えられています。そこで、母貝候補として飼育している成貝の一部を定期的に開殻し生殖腺の発達状況を調べ、現在最も人工種苗生産に適していると考えている産卵期のはじまりがいつ頃なのかを調べてみました(図1)。
気候、海況により年ごとに多少のずれはあると思われますが、生殖腺指数(生殖腺の発達を数値化したもの)のピークは9月にあり、その後下降しました。
このことから、7月〜8月にかけてが人工採苗に適した時期ではないかと考えられました。
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