水産試験場
イワガキの人工種苗生産試験の概要と課題について
はじめに
ワガキなど海水中のプランクトンや懸濁物を餌として利用し成長する「ろ過食性生物」や海水中の栄養塩を吸収する「海藻類」などの人為的な増養殖により周辺の富栄養化を抑え、漁場環境の浄化・保全が期待できます。また、餌を与える必要がないなど魚類養殖と比べ労力やコストが少なくてすみ、これらを複合的に組み合わせることで環境を保全しながら沿岸海域の持続的な利用とともに副業的な収入源にすることができるのではないかと考えられます。
そのような中で、水産試験場では、「ろ過食性生物」として現在イワガキを対象として人工種苗生産試験と養殖試験を行なっています。
イワガキは、タンパク質、ミネラル、ビタミン類など栄養素を豊富に含み、マガキに比べて大型になる外洋性のカキであり、夏でも食べることができるという特徴があります。また、宮崎県沿岸のカキはイワガキが多いと考えられています。
今回は、平成23年度に実施した人工種苗生産試験の概要とその課題を中心に紹介します。

イワガキの天然採苗と人工採苗(人工種苗生産)の長所と短所

イワガキの種苗を確保する方法としては、人工採苗(人工種苗生産)と天然採苗の2つの方法があります。
天然採苗は、沿岸海域で天然貝が自然に行なう放卵放精にあわせてホタテ貝殻などを幼生の付着基盤として海域に吊るし、自然に付着させ、採苗する方法です。この方法で安定して充分量の種苗を得ることができれば最も経済的だといえますが、毎年の水温状況の影響や浮遊幼生の出現状況、付着基盤の垂下タイミング、効率的に大量に幼生が得られる場所の選定等解決すべき課題は多く、安定的に付着稚貝を得るに至るには多くの知見の蓄積や作業が求められ、天候などの不確定な要素も影響してきます。
一方、人工採苗は、さほど自然条件に左右されない状況下で比較的に計画的な採苗ができるという利点があり、天然採苗が困難とか満足いかない状況では有効な方法です。しかし、良質な親貝を確保しなければならないこと、生まれた幼生が支障なく生育できる環境、すなわち擬似の自然環境を陸上水槽で作り、維持しなければならないこと、また、プランクトンなどの摂餌できる生餌を用意・確保し、適正に給餌しなければならないことなど天然採苗ではかからない手間やコストが必要であるという短所があります。

イワガキの人工採苗(人工種苗生産)方法の概要

水産試験場では平成21年度から計画的で効率的な種苗の確保を優先目標として人工種苗生産試験を行なっており、今年度はこれまで得られた採苗方法や採苗条件を基に給餌量を調整することで生産個数の増加を試みました。
以前も本コーナーにてご紹介していますが、人工種苗生産では、まず成熟母貝を用意し、生殖腺に切れ込みを入れ、そこから卵や精子を染み出させて採るという「切開法」を用いています。集めた卵と精子を混ぜて一定時間受精を行い、その後、洗卵、さらに12〜14時間ほど初期培養を行い、浮上してきた元気な浮遊幼生を集め、500L水槽1槽に1個/mlの密度で50万個を収容します。その後、浮遊幼生期間の約25日間と更に、水槽内に付着基盤としてホタテ貝殻を吊した付着幼生・付着稚貝期間の約10日間、毎日、水温・水質測定と給餌量調整を行ないつつ、2、3日おきに、あるいは毎日飼育水の交換を行い、生育と付着を行なわせます。
ホタテ貝殻への付着までたどり着けば、ある程度安心できますが、その前の付着までの長い浮遊幼生期間中に起こる減耗や大量へい死をどう防ぐかということがもっとも大きな課題となります。
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