水産試験場
昨年発生した北浦湾海域の赤潮について -生物利用部-

図1.北浦湾周辺海域におけるH.akashiwoの
赤潮発生状況(S58〜H22)

平成22年6月下旬から7月上旬にかけて北浦湾周辺海域においてヘテロシグマ・アカシオというプランクトンによる赤潮が発生し(写真1〜4)、カンパチ等のへい死により多大な被害が出てしまいました。 この赤潮原因プランクトンは、魚類のへい死を引き起こす有害種であり、海水1ml当たり10,000細胞以上の密度に達すると養魚がへい死する危険性が高くなり警戒する必要があります。また本種は、分裂を繰り返して増殖しますが、環境条件が整わなくなるとシスト(休眠細胞)となって海底の泥に付着し、翌年の発芽を待ちます。つまり、一度赤潮が発生すると大量のシストが海底に堆積し、台風や潮流等による拡散がなければ、翌年に大量の栄養細胞が発芽するという可能性があります。 北浦湾海域では、過去に発生した赤潮のうち本種によるものが一番多く、平成5年まではほぼ毎年発生していました(図1)。ただし、被害は無いことも多く、あっても小規模でシマアジの稚魚が弱いことが知られており、主要魚種であるブリやカンパチのへい死は過去にはありませんでした。




図2.北浦湾周辺海域におけるH.akashiwoの
赤潮発生件数とDIN、DIPの推移

平成6年以降は赤潮を形成しなくなりましたが、毎年6月頃から出現し1ml当たり数十〜数百細胞は確認されます。それ以上は、増殖しなくなったということです。この要因としては、降雨や日照等の気象条件も考えられますが、養殖のエサが生餌から配合飼料によるモイストペレットに切り替わったことで漁場環境が改善され、栄養塩濃度(DIN:無機態窒素、DIP:無機態リン)が低下したことが大きいと考えています(図2)。北浦湾の漁場環境の改善傾向は、他の水質や底質のデータからも明らかとなっています。
ところで、昨年発生したヘテロシグマによる赤潮は、平成10年6月に小規模な赤潮(最高18,000細胞/ml)の形成が確認されておりますが、それから数えても12年ぶりの発生となり、しかも、本種により被害が出たのは平成5年(シマアジ稚魚300尾、被害額15万円)以来17年ぶりでした。


図3.H.akashiwoの赤潮発生件数(6月22日)

6月22日発生時は、湾奥部の港内から着色が確認され、すでに警戒密度に達していたことから餌止め等の対策を講じました(図3)。しかしながら、着色域は徐々に養殖筏の方へ南下拡大し、4日後の6月26日に残念ながらカンパチとヒラマサの大量へい死を招き、被害額2,956万円と過去最大の赤潮被害となってしまいました(図4)。本種による赤潮で、これほどの大量へい死は初めてでした。裏を返せば、ヘテロシグマを軽く見ていたのかもしれません。その後、更に着色域は南下し浦城湾や島野浦方面でも着色域が確認され、7月7日には湾奥部の港内で最高186,500細胞/mlのピークを迎え(図5)、7月12日に終息を確認しました。
それでは、なぜ突然高濃度な赤潮を形成したのか?
赤潮発生要因は、水温、栄養塩、光、塩分濃度、種間競合等が挙げられます。海底水温の上昇によりシストの発芽、降雨により陸水からの栄養塩類の供給や塩分濃度の低下、そしてその後の日照、また他の植物プランクトンとの栄養塩類の奪い合いというように、様々な条件が複雑に絡んでいます。ヘテロシグマの特徴としては、低塩分を好み、弱い光でも増殖し、増殖スピードが速いという点が挙げられます。

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