水産試験場
図2

さらに病魚眼球の病理組織を観察した結果、程度の差はあるもののいずれも同様の状態でした。すなわち内部に病巣部の組織が死んでチーズ状となった病巣があり、周囲に炎症性の組織・細胞が発達していました(図2aおよびb)。眼球の網膜(光や色を感じる膜状の組織)は、はがれているか、壊れており、しばしば出血による血の塊が見られました。角膜(眼の外側を覆う組織)は、炎症性の組織・細胞が観察されました。また組織が死んでチーズ状となった病巣の周辺に細菌のかたまりがありましたが、複数の細菌が観察され、特定の細菌が引き起こしたものではなく、何らかの原因により眼球異常が引き起こされた結果、病巣が「膿んだ」状態となった状態にありました(図2c)

図2 眼球異常病のカンパチ眼球組織
a:眼球内の炎症性組織。右側に組織が死んでチーズ状となった病巣(Ca)が見られる。内部は炎症性の組織(類上皮(E)と肉芽組織(G))が発達している。肉芽組織中に赤く見える斑点は過去に出血等があったところ。矢じり部分には細菌のかたまりが見られる。
b:写真aの左下の矢じり部分を拡大したもの。炎症性の細胞が見られ,また大きな細菌のかたまりが認められる(矢じり)。
c:同一の眼球内で見られた異なる3つの細菌群。
左;小型の球菌あるいは桿菌。中;比較的大型の短桿菌。右;非常に小型の桿菌。

結果から考えられること

発生状況調査により、本病はカンパチ養殖において重要な疾病であることが明らかとなりました。病理組織検査では、眼球内の細菌によって生じたと考えられる炎症性の組織が観察され、眼球内部からα溶血性レンサ球菌症原因細菌であるL. garvieaeをはじめ複数の細菌が分離されました。α溶血性レンサ球菌症は眼球突出などの症状を引き起こすことから、α溶血性レンサ球菌症が可能性として考えられましたが、腎臓から細菌が分離されなかったことや病変は眼球内部に限定されていることから、α溶血性レンサ球菌症発症に伴う病変であるとは考えにくいです。このため眼球内部から分離された細菌は、何らかの原因で傷がついたカンパチの眼球に二次的に侵入し、いわゆる「膿んだ」状態になったと考えられます。養殖場においてカンパチの眼球に傷を与える要因としては、活魚の取扱不備による物理的なもの、ハダムシ(Neobenedenia girellae)の眼球寄生によるものが挙げられます。今回報告したカンパチ眼球異常病(類似の疾病含む)は西日本各地のカンパチ養殖場で発生している模様であり、他県の発生事例では眼球異常病が頻発する時期とN. girellaeの寄生が見られる時期が一致することから、本疾病に当該寄生虫が関与しているとの情報もあります。しかしながら宮崎県においては過去の調査結果により別種のハダムシ(Benedenia seriolae)の寄生が大半を占めていること、今回サンプリングした供試魚ではB. seriolae のみ確認されたことから、宮崎県での発生例においてN. girellaeの関与の可能性は低いと考えられ、ハダムシ(Benedenia seriolae)も過去に宮崎で継続的に確認されていることから、これらハダムシ症が今回の眼球異常の直接的な原因とは考えられません。一方、他魚種の眼球異常において、物理的な損傷や感染症以外に、ビタミンの欠乏によっても引き起こされることが報告されており、ビタミン類などの栄養要求と眼球異常病発生の関連性も含めて総合的に検討する必要があると考えられ、今後の研究が期待されます。
先述したように、カンパチの眼球異常病は多くのカンパチ生産地で発生していますが、いずれも原因は明らかにされていません。今回の魚病検査においてもカンパチの眼球異常病の原因を特定することはできませんでしたが、本研究において、眼球異常病はカンパチ養殖において重要な疾病であることが明らかとなったことから、今後、様々な角度から調査・研究を行うことにより、本病の原因究明および対策技術の開発が望まれます。

平成25年度第3回・第4回理事会
5日 第296回宮崎県内水面漁場管理委員会(宮崎市)
20日 第366回海区漁業調整委員会(宮崎市)
22日〜23日 九州ブロック漁業士研修会(宮崎市、日南市)
FISHERIES EXPERIMENT