水産試験場
養殖カンパチに発生した眼球異常

カンパチSeriola dumeriliは国内でも主要な養殖魚種の一つであり、西日本沿岸で海面養殖が盛んに行われています。平成23年の宮崎県養殖生産量は全国第6位で、主な生産地は県北部であります。近年、国内の養殖カンパチにおいて眼球異常を呈する疾病が夏季を中心に多発しており、宮崎県においても平成22年頃からこの症状を呈するカンパチが目立ち始めました。今回は、この疾病を眼球異常病と仮称し、宮崎県内における発生状況やこれまでに実施した魚病検査結果について報告します。

材料および方法

発生状況調査

宮崎県内でカンパチ養殖を行っている13業者に対して、眼球異常が認められ始めた時期、平成22年における本病の発生時期、さらに淡水浴・薬浴時に確認された異常魚の大まかな尾数および年齢について調査しました。

眼球異常魚の魚病検査

平成23年10月および11月に、4業者の養殖場で合計15尾のカンパチ(魚体重350〜3,200g)を生きた状態でサンプリングし、眼球の外観を観察し、眼球より菌分離すると共に眼球の病理組織観察を行いました。

結果

発生状況調査

回答が得られた11業者のうち、眼球異常病が発生した10業者から発生状況を聞き取ることができました。本病が確認され始めた時期については、平成20年および平成21年と回答した業者がそれぞれ1業者および2業者でありましたが、他の7業者は平成22年5〜10月に初めて確認されたと回答していました。次に眼球異常病の発生ありと回答した10業者より平成22年の眼球異常病発生状況について聴取しました。眼球異常病が発生したカンパチの年齢は当歳魚のみが2業者、1年魚のみが2業者、当歳魚および1年魚が4業者、全ての年齢群(当歳〜2年魚)が2業者であり、当歳魚および1年魚の発生が多かったです。また、各年齢および各月毎の発生状況を調査した結果、どの年級群も発生時期は8〜9月を中心に7〜11月でありました。なお、発生ありと回答した養殖業者に対し、淡水浴・薬浴時における眼球異常病カンパチの確認尾数について聴取したところ、1生簀(生簀の大きさは約10〜11m角)あたりの収容尾数は魚の成長段階に応じて、概ね2,000〜10,000尾であり、概ね2週間に1回程度の頻度で淡水浴や薬浴を行った場合、1生簀の収容尾数あたり最大2割程度の病魚が認められるとのことでありました。


図1

眼球異常魚の魚病検査

眼球異常を呈したカンパチの写真を図1に示しました。左右どちらかの眼に異常ありの個体が多く、眼球表面が白濁した個体、潰瘍形成や水晶体が欠落(いわゆる眼腐れ)した個体が高頻度で確認されました。一部の個体では体表にハダムシ(Benedenia seriolae )の寄生が確認されました。なお、鰓や内臓を検査しましたが、特徴的な症状は認められませんでした。次にカンパチ眼球より菌分離を行った結果、カンパチ15尾中13尾の眼球内から4種類の細菌が分離されました。1種類はぶり類レンサ球菌症の原因細菌であるα溶血性レンサ球菌(Lactococcus garvieae)と同定され、残り3種類はグラム陰性菌が確認されました。最も高頻度に分離されたのはL. garvieaeで、13尾中7尾から分離されました。ウイルスは何れの検体からも分離されませんでした。

図1 眼球異常病の症状を呈したカンパチ病魚
A: 眼球表面が白濁した個体。
B: 眼球表面に潰瘍が生じているが水晶体を有する個体。
C: 角膜が消失し水晶体が欠落した個体。
D: 眼球表面が角膜様組織により再生したと思われる個体。

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