水産試験場
り良いカワハギ養殖を考える‐カワハギ養殖技術の向上に向けての取組‐

本県の海面養殖生産の主体であるブリ類養殖は近年の魚価の低迷や飼料価格の上昇で厳しい経営状況です。このような中、養殖カワハギは天然産に比べて価格が高く、飼育期間がブリ類と比べ短いことなどから、現行の主力魚種と組み合わせた複合養殖に有用な魚種として注目されており、カワハギ養殖振興を目的に複数の県で種苗量産化技術開発が行われています。宮崎県でも種苗量産化に取り組み、10万尾以上の種苗生産に成功し、試験的に宮崎県内の養殖業者に出荷しているところです。しかしながら、本県におけるカワハギ養殖の歴史は浅く、疾病対策や飼育管理に関する技術開発の必要が生じました。そこで今回は、カワハギ養殖における現状や、これまで得られた研究成果を示しながら、安定的なカワハギ養殖を行うにはどうしたらよいかを考えてみたいと思います。

1 養殖カワハギを取り巻く状況を考える
カワハギ養殖のお話をする前に、最初にカワハギ養殖の一連の流れについて説明したいと思います。まず、カワハギ養殖を始めるにあたり、種苗の導入から始めなければなりません。種苗はこれまでカゴや定置網で採捕された天然種苗(5〜20g程度)が用いられてきました。しかしながら、天然種苗は必要な量やサイズなどがまとまって採捕できるとは限らず、状態が良いものがそろわない場合やロットによって当たり外れが大きいことが問題点でした。このため養殖現場より、種苗生産技術開発が求められ、宮崎県においても平成18年度より技術開発に取り組んだ結果、10万尾以上の稚魚量産化に成功しました(表1)。人工種苗は安定的に種苗供給できるだけではなく、種苗の由来がはっきりしていることから、安全・安心な養殖カワハギづくりに、大きく貢献するものと期待されています。種苗導入後は配合飼料やモイストペレット等を給餌し、約1年程度で出荷されているようです。出荷サイズは300g以上で、出荷価格はサイズによって異なりますが、 1,600円〜2,500円/kg程度で取引される模様です。養殖カワハギの生産量は統計がないので正確な数値は不明ですが、概ね200トンで推移している模様です。ただ、カワハギは単価が高いことや、クドア問題等でヒラメ養殖業者がカワハギ生産に転換する傾向にあることから、カワハギの養殖生産量は今後、増加傾向になると予想されます。

【表1 宮崎県のカワハギ種苗生産実績】
年度 種苗生産実績(尾)
うち宮崎水試生産分 うち(財)宮崎県水産振興協会生産分
18 357 357 -
19 23 23 -
20 223 223 -
21 92,233 233 92,000
22 52,337 7,137 45,200
23 272,100 - 272,100


図2 愛知県、大分県および宮崎県
におけるカワハギの魚病診断状況
(平成17年〜21年度)
2 養殖カワハギの疾病発生状況を考える
カワハギ養殖を行う業者より、夏季に魚が死んで歩留が低下するとの相談を多く受けました。カワハギ養殖を振興するにあたり、どうして魚が死ぬのかを考えなければなりません。しかしながら、先にお話ししましたとおり、宮崎県ではカワハギ養殖の歴史が浅いので、診断記録等の資料が少ない状況です。そこで、先進県である愛媛県、大分県の魚病診断記録と宮崎県の記録を合わせ、疾病発生状況の分析を試み、結果を図2に示しました。カワハギの疾病診断は6〜12月に多い傾向にあり、特に(細菌感染症である)レンサ球菌症が最も多い結果となりました。カワハギのレンサ球菌症は、(ブリ類で主に発生する)α溶血性レンサ球菌症及び(ヒラメで主に発生する)β溶血性レンサ球菌症の2種類が多く確認され、これら感染症に対するワクチンは他の養殖種で市販されていますが、残念ながら現状ではカワハギでは承認されていません。カワハギで承認されている治療薬はOTCのみであり、カワハギ養殖を振興するために、ワクチンを用いた予防対策の技術開発が必要となりました。また、魚病診断結果をみると、その他疾病が約3割程度あり、これら疾病の一部は栄養性疾病の可能性があります。カワハギに適した飼料を給餌しないと、成長や健康性に影響を与える可能性があります。このため、カワハギに適した飼料を検討する必要が生じました。
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