2 ウイルス病
カワハギではマダイイリドウイルス病(以下,「RSIVD」という)およびウイルス性神経壊死症(以下,「VNN」という)が確認されています。
RSIVDはマダイやブリ類を始め20種の海産魚で発生しています。症状は鰓の褐色点(黒点)や脾臓の肥大が認められるものの,マダイやブリ類のように症状が顕著でなく,水産試験場での遺伝子検査が必要です。病魚は稚魚期から種苗導入期にかけて発生することが多いようです。
VNNはシマアジ,ハタ類を始め幅広い魚種で発生しています。症状は遊泳異常(キリキリ舞や転覆遊泳)の他,内部所見ではうきぶくろの異常な膨らみ(膨満)がよくみられますが,それ以外では異常が認められないものも多いです。このため水産試験場での遺伝子検査が必要です。VNNでも稚魚期から種苗導入期にかけて発生することが多いようです。
RSIVDやVNNに対するワクチンは他魚種で市販されるものの,カワハギでは使用できません。このため,履歴のはっきりした種苗を使用する,本病の発生頻度が高い高水温期(目安は25℃以上)では特に高密度飼育や過給餌といった魚に負担を与えるような飼育を避けるといった予防対策が重要と考えられます。 |
3 細菌病
カワハギでは細菌病であるα溶血性レンサ球菌症・β溶血性レンサ球菌症を始めとしたレンサ球菌症とビブリオ病の診断件数が多く,これら細菌病が最も多く発生しているものと示唆されます。
α溶血性レンサ球菌症ではラクトコッカス・ガルビエが,β溶血性レンサ球菌症ではストレプトコッカス・イニエが原因細菌とされ,これらレンサ球菌症はカワハギ養殖に大きな被害を与えます。症状はどちらのレンサ球菌症でも同様で,眼球の白濁や突出,腹部内(腹腔内)の出血などの症状が認められます。代表してβ溶血性レンサ球菌症病魚の写真を図2に示します。症状や死亡状況で概ね本症を推定できるものの,症状の進行が早く対策が遅れると致命的になりますので,発生が疑われた場合は水産試験場に御相談下さい。予防対策はワクチンが有効であり,2016年5月よりカワハギで使用できるβ溶血性レンサ球菌症ワクチンが市販されたことから,ワクチン接種による予防が一番です。一方,α溶血性レンサ球菌症では実験的にワクチンの有効性を確認しているもののカワハギでは使用できません。このため履歴の明らかな種苗を導入する,発症時に制限給餌を行う,薄飼いを行うといった基本的な対策で予防に努めてください。α溶血性レンサ球菌症も被害が多いことからβ溶血性レンサ球菌症ワクチン同様,早期のワクチン実用化が望まれます。
ビブリオ病は高水温期を中心に確認されます(図1)。症状は体表スレ,腎臓・脾臓肥大が認められます。ビブリオ病対策には塩酸オキシテトラサイクリン(OTC)が使用できますが,OTCに耐性を持つ菌株も多くみられます。一方,ビブリオ病は,飼育密度が高い,選別不良(サイズが異なる魚が混在した状態)といった飼育管理に問題がある養殖場で発生する事例が多いです。このため適正な飼育管理を行うことでビブリオ病の被害軽減は期待できます。 |
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図2 β溶血性レンサ球菌症で死亡した養殖カワハギ病魚の写真
A:外部所見。眼球白濁(矢印1)を確認。
B:内部所見1。膜腔内出欠(矢印2)および肝臓のうっ血(矢印3)を確認。
C:内部所見2。肝臓の発赤(矢印4)を確認。
D:脾臓スタンプ標本(Diff Quick染色)。多数の球菌(矢印5)を確認。 |