4 寄生虫病
カワハギにおける寄生虫病は,粘液胞子虫性やせ病やペニクルス症(シリトガリコヅツヒジキムシ症)が確認されています。
粘液胞子虫性やせ病は図3Aのようなやせ症状を呈して餌を食べなくなり,徐々に死亡する感染症です。腸管を顕微鏡で観察すると原因寄生虫が多数確認されます(図3B)。本寄生虫は一旦感染環(寄生虫が増殖するために宿主と他の場所(若しくは別の宿主)を往来するサイクル)が成立してしまうと魚群を一旦取り上げて感染環を断ち切るしか有効な対処法がないことから,こうならないように履歴の明らかな種苗を導入することが予防対策として重要です。
ペニクルス症はエビ・カニの仲間(カイアシ類)の1種(図4)が背鰭や尾鰭等の鰭に寄生することで発生し,寄生した魚はスレ症状を呈し,二次的にレンサ球菌症やビブリオ病などの細菌病が発生するケースもあります。被害軽減のため定期的に淡水浴を行い,寄生の程度を下げる取り組みを行っている養殖業者もいますが,その効果は不明であり,粘液胞子虫性やせ病と同様の対策が有効と思われます。 |
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図3 粘液胞子虫性やせ病を発症したカワハギ病魚
A:外部所見。目のくぼみ(矢印1)のようなやせ症状を確認。
B:ウエットマウント標本。粘液胞子虫の胞子(矢印2)を多数確認。 |
図4 カワハギ病魚体表で寄生が確認されたカイアシ類の一種(未限定) |
5 その他
ハギ類やトラフグでは原因不明のへい死が一定量発生しています。特にカワハギでは低水温期に多い傾向にあります(図1)。この中には餌飼料性のものがあると考えており,水産試験場では,これまでの研究で冬季にカワハギに脂質含量の高い配合飼料を給餌することで(特に冬季で)成長の停滞など飼育成績が悪化することを確認しています。このことから,特に低水温期は飼料の質(トラフグ用飼料のような高タンパク質組成の配合飼料を選択)や給餌量(過給餌にならないよう注意)に十分注意した飼育が必要です。
またカワハギでは成長差が生じると,魚同士の噛み合いにより特に小型魚にスレが生じ,滑走細菌症やビブリオ病が発生するケースが多いようです。カワハギは皮が厚いため生物学的にスレに強いと考える養殖業者は多くいますが,これまでの診断経験を基に考えるとハギ類は海産養殖魚の中ではスレに弱い部類ではないかと思います。これまで良好な飼育ができた養殖業者は,適切な選別,自動給餌器や置き餌(冷凍アミや練餌などをカゴに入れいつでもハギ類が食べられるようにする)設置による餌飼料不足解消など,魚同士の突き合いやそれに伴うようなスレを防ぐため飼育管理に工夫を行っています。このような取組を行い各養殖場に適した飼育管理を実践すれば魚病被害の軽減や歩留の向上につながるものと考えられます。 |