水産試験場
イセエビの標識放流について-資源部-

はじめに

イセエビは茨城県以南の太平洋岸、九州西岸にかけて分布し、生息場所は水深5〜30mの岩礁地帯に多く、時には水深50mの海域でも採捕されています。
主産卵期は4月〜9月で、県の漁業調整規則ではこの産卵期に当たる4月15日〜8月31日を採捕禁止期間としています。
産卵後、卵は約1か月でふ化、ふ化した幼生はフィロソーマと呼ばれ海を漂う生活をします。この「漂う生活」については、どこを漂った後に沿岸に稚エビとなり着定するのか分かっていませんでしたが、近年、フィロソーマ幼生は1年かけて沿岸から黒潮に乗り本州東方沖へ、その後黒潮反流に乗り南西諸島周辺へ輸送され、再び黒潮に乗り、沿岸に戻ってくるということが分かりました。

図1:イセエビ資源レベル
図1:イセエビ資源レベル
図2:イセエビ資源動向
図2:イセエビ資源動向

1.イセエビの資源評価

県では、沿岸資源の資源管理の方向性を定めたり、すでに実践されている資源管理計画の効果検証、改善をするため、平成23年に資源評価委員会を設置しました。平成26年度までに19種の沿岸魚種(甲殻類、頭足類を含む)が評価され、重要資源であるイセエビは毎年評価されています。
それではイセエビの平成26年度の資源評価について見てみますと、昭和45年から43年間の漁獲量の順位(図1)でみた資源レベルは「低位」、県北・中・南の直近5年間のCPUE(漁獲量/操業日・隻数)の推移(図2)からみた資源動向は「横ばい」となっています。
資源水準が低位となっている原因についてははっきりと特定したものはありませんが、提言では資源管理方策として「加入量の増大を目指す取り組みと資源の有効利用」、具体例として「藻場の造成や小型個体の再放流」を上げています。
図3:標識装着イセエビと標識
図3:標識装着イセエビと標識
表1:標識イセエビの放流尾数・頭胸甲長・体重
表1:標識イセエビの放流尾数・頭胸甲長・体重

2.イセエビの標識放流

県では、この提言を踏まえ、イセエビ資源の効率的な利用を目的に、その一環として昨年(平成26年)小型イセエビの標識放流を実施しました。標識放流と再捕により、放流後の移動と成長が分かり、漁業者は再放流の効果を実感でき、また、地域特性に応じた資源管理方策の知見を得る、というのがこの標識放流のねらいとする所です。
標識放流は、児湯郡都農町地先(都農川河口沖転石水深10m海域)と日南市宮浦地先(宮浦観音埼沖イセエビ人工礁沈設水深20m海域)で、それぞれ9月3日と10月17日に行いました。
放流に供したイセエビは、体長16cm以下の小型エビを用いました。
標識はスパゲティー型アンカータグという標識を用い、タグには数字を刻印し個体識別ができるようにしました。標識方法は、頭胸甲と第1腹筋との背面間隙筋肉部に正中線を外してタグガンにより行いました(図3)。
都農町地先放流は標識した日に、日南市宮浦地先放流は水産試験場内で標識し(標識日:9月19日)、一時水産試験場内で蓄養し、放流しました(表1)。
FISHERIES EXPERIMENT